絶対の真理とはなんぞや。無とは、そして有とは? 人間が認知できる宇宙の外側には何があるのか。そもそも、宇宙とはなんぞや。時間とは? 意識とは? 生命とは? なぜ、人は他人を殺すことをタブーとするのか?
生まれてからただの一度も、右のごとき哲学的疑問にとらわれた経験のない人は、たぶんいないだろう。えー、オレ頭悪いから、そんなこと一度も考えたことないぜ、というたとえば”不良”高校生もいるかもしれない。
が、それは右のような言葉遣いで思考したことがないだけで、彼にとって思考可能な言葉や概念にパラフレーズ(言い換え)して考えてるはずなのだ。厄介なことに、幼稚園入園程度の言語能力ができると、ヒトはついつい世界を解釈したがってしまう。不幸な話である。
『THE ANSWER』は、「そうした問いのすべてを解いてしまった(と思い込んでいる)一人の男の愛と涙と笑いの実存の物語だ、と作者であるG.P.S.氏は言う。
は? G.P.S.って、人の名? という疑問が、まずは浮かぶだろう。これは、General
Problem Solverの略、なのでそうである。日本語にするなら”全体問題解決者”とでもすればいいのだろうか。要するに、人類が抱えているさまざまな矛盾や問題を、その発生する根源にさかのぼって解決した、という主張によってそう名乗っているのである。
まあ、一般的---というのも定義があいまいな語だが---な人間は、このあたりですでに少々逃げ腰になるかもしれない。
作者が”物語”と称している本書も、フィクションではあるが、いわゆる小説とは微妙に異なり、哲学する過程そのものを扱っている点で思想書、いや、思考書という風にもとれる。
主人公は、死にいたる病としての「なんでなんで病」にとりつかれた青年で、老人介護の問題から国際紛争まで、世界の始まりから終末までのすべてを解決する方程式を見いだそうとする。そして、周囲の無理解と死=無への誘惑と戦いつつ、人間世界の「構造」を発見する。
「百万年通用する屁理屈」としてのそれは、人間がいかにして言語を獲得したか、ということについての理論を中心に置く。「上質の推理小説を読むように」と帯にあるので、なまはんかに述べると叱られてしまうかもしれないが、私なりに要約してみよう。
動物も使用しているであろうコミュニケーション言語。そこから飛躍して”意味するもの”---本書の場合では音声---と”されるもの”の間に直接的な関連が存在しない記号言語をヒトが獲得した瞬間に、この”世界”は生まれ、時間も心も、そして永遠に堂々巡りをするしかない「不完全定理」的な人間の真理探究も生まれた。
すなわち、哲学であれ科学であれ、言語構造を基礎にして思考する限り、人間に出来るのは「分かる」/「知る」ではなく「決める」行為のみである、とG.P.S.氏は述べる。
ソシュールの言語学に多くを負ったこの結論は、よく「納得」できる。もっとも、こんな形で要約してしまうと、本書全体を貫く楽しい「屁理屈」感が抜け落ちてしまうので要注意だ。
ブッダが到達した仏教的宇宙観にも接近する内容は、さまざまな点でポレミック(論争的)であり、論理の穴を探して反駁したくなったりもする。知的な遊戯を、多少たどたどしくはあっても物語的枠組みに収納した手腕は、理屈好きな人々への意欲的な挑戦だ。
東海ウォーカー・2003年NO.5/これは買い!『人はなぜ行きているのか? 君はこの問いに答えられるか?』
毎日21世紀賞を受賞したこの本は、人はなぜ生きているのか? という考えれば考えるほど分からなくなる問いを「すべて解けた!」(と思い込んでいる)男の告白の書だ。
しかもこの男、自分が発見した「すべての問題を解決する思考法」(確かにスゴイ!)を、ザ・ハイロウズの曲や古谷実のマンガをビシバシ引用して、わかりやすく、ハイテンションで、スピード感満点で解説してくれるから、グイグイ引きこまれること間違ないっす!
とにかくパワー全開で伝えたい気持ちにあふれたこの本を読んでほしい。
日経エンタテイメント・2004年8月号NO.89/『世界のすべての問いを解決? 哲学エンタテイメント小説』
世界中のすべての問いを解決する最終理論を見つけたと宣言する作者が、小説仕立てで自論を展開する異色の哲学書。有無を言わさず突っ走るパンクな論理展開には、圧倒させられる。
週刊プレイボーイ・2004年7月20日NO29/アニキの本棚
世界中のすべての問いを解決できる答えはあるのか? 深遠すぎるテーマに挑む哲学エンターテイメント小説。特別養護老人ホーム「ツバメ苑」の2階にいるMさんから哲学の世界が広がり始める。
朝日新聞・2004年7月11日(日曜日)/be
Books 『どこから読んでも楽しめ記憶に残る』
読んでいる最中はもちろん、読み終えてなお「何だかよく分からない」と微妙な感想を抱かされてしまう『THE ANSWER』は、空前の哲学小説。宇宙って? 自分って? 人はなぜ生きるの? 世界はどのように始まり、どのように終わるの? 1+1は何で2になるの? 誰もが日頃、漠然と抱いているそんな疑問を解き明かした(と思い込んでいる)「哲学病」の男の物語。30分で1章読み終える人もいれば、1ページも進めない人もいるに違いない。「読者によって味わえる楽しさの質が大きく変わる」というところがポイント。
SPA!・2004年7月20日/『こだわり店員の大プッシュはこれだ』(青山ブックセンター本店・北嶋利恵子さん)
『”自分”の存在とは何か? 普遍的な哲学の問いかけをエンターテイメント化した異色の小説』
自分はなんのために存在しているのか? そんな問いかけを誰もが一度はしたことがあると思います。この『THE ANSWER』の触れ込みは、空前の哲学エンタテイメント小説。もともと新風舎で自費出版されたものが角川書店の目に留まり、改めて出版されたという異色作です。
著者の鈴木剛介さんは上智大学の哲学科卒業後、大手広告代理店勤務。その後、魚河岸や介護施設を経て……と、かなり変わった経歴の持ち主。そして、小説は、著者自身と言える書き手から、彼女へ送る手紙という形式で綴られます。文学の話から人工知能をはじめとする最先端科学の話まで、エピソードを交えて彼自身の思索の過程を追体験させられる感覚。自分のことを深く掘り下げて書いた文章は、時に読者を置いてきぼりにしますが、彼はかなり意識的に言葉を使い、”伝える”努力を惜しみません。誰もが一度はハマる思索の迷路からの脱出法とは? 彼流の”答え”に触れてみてください。
読売新聞・2004年7月14日夕刊
「人間の認識/思考とは『分かる』『知る』ではなく『決める』だ」。この一言にピンときたら、本書を手に取ろう。
対話や書簡の形ながら、そこには決してヤワではない知の冒険がある。世界の始まり、殺人、宗教などといったテーマを明瞭な言葉でつかみとり、答えはコレだと言ってのける。思考が達する「ひとこと」の強さを感じる一冊。
本の雑誌・2005年1月号・(2004年度ベスト10座談会より記事抜粋)
「鈴木剛介『THE ANSWER』ですね。もともと自費出版で出されたものなんですが、大幅に加筆修正されて、今年角川書店から出ました。この著者は世界中のあらゆる問題を解決できる答えを見つけたらしいんです。哲学的な問題から、飲食店の経営といった日常の問題にいたるまで、すべて解決できる。
論考と小説とエッセイがごっちゃになった、わけのわからない本で、著者も身長185センチ、体重95キロ、柔道・少林寺拳法有段、ボクシング歴7年、そしてK-1参戦を本気で希望しているんです。とっても破天荒な著者で、いやあ、会ってみたいですね」
本屋大賞2005(全国書店員が選んだいちばん!売りたい本より記事抜粋)
柳幸子/丸善ブックメイツ横浜ポルタ店
「何? と思いつつ読んでしまう不思議な本でした」
匿名/オリオン書房サザン店
「つまらない本を読むと眠くなりますが、これを読んで眠気が飛びました。書店員の性として(?)これまでの価値観を変えるような、どこのジャンルにも属さない本には自ずと興味を持たれる事と思います。この本は厳密に言えば小説ではないかもしれませんが、帯に『空前の哲学エンタテイメント小説』とある事ですし(笑)多少の無理を押しても推薦します。だって面白いから」
【書評】産経新聞・2005年11月21日『自殺同盟軍』鈴木剛介著
タイトルに誘われた。生きる意味を見いだせず、自殺願望を持つ男がプロボクサーを経て、特別養護老人ホームで働き、自殺志願者の女性に出会う。二人が結成したのが「自殺を有効活用する」という「自殺同盟軍」。ネットで集まった六人で活動を開始するが…。展開の速さ、とりわけラストに至るまでのスピード感は圧巻。死と生が絡み合い、そのうち、意味や理由は溶けて消えてしまう印象がある。ネット心中が珍しくもない昨今とはいえ、ストーリーは荒唐無稽(むけい)かもしれない。しかし、妙な説得力を保つ。なぜか。巻末に記された著者の公式ホームページを訪ねて、少し分かった気がした。主題を裏打ちするもの。それは織り交ぜられた筆者の実体験だったのだ。(角川書店・一三六五円)
『小説トリッパー』(朝日新聞社)一押し若手作家はとりあえずこの10人だ!/永江朗評
自費出版からプロ作家になるのはほとんど不可能だが、鈴木剛介は例外かもしれない。自費出版ではなく、メジャーからの長編第二作となる『自殺同盟軍』は、「死の有効活用」なんていうヘンテコなテーマを掲げるエンターテイメントである。
「オレ」は自殺願望を持ち続けている。はっきりした理由はない。漠然と死にたいと思っている。背も高い、腕力もある、頭もいい。唯一の問題は障碍による勃起不全だが、これが死にたい理由ではない。親友に相談すると、一年後に死ぬことにして、それまで好きなことをやれと提案される。まずはボクシングに打ち込み、プロデビュー戦をKO勝ちで飾る。さて死のうと思うかと思うと、こんどは老人介護施設から助っ人として迎えられ、とりあえずは働き出す。そこで出会った同じく自殺願望を持つ女性と自殺同盟軍を結成し、自殺の有効活用を探すが……。
構成にまとまりがなく不器用だし、自殺志願者が人助けをしてしまうというプロットは高野和明『幽霊人命救助隊』を連想させるが、読んでいて心躍るようなところがある。次の長編も読みたい。
本屋大賞2006(全国書店員が選んだいちばん!売りたい本/『自殺同盟軍』)
児玉憲宗/啓文社
「面白いに理由なんてない。ただ、面白いだけだ。読み終わった後、海に向かって『これが今年のNO1じゃー』と叫びたい衝動に駆られたがやっとの思いで堪えた。(中略)前作『THE ANSWER』でみせたパワーも相変わらず。とにかく鈴木剛介には目が離せない」
*** 以降、省略 ***
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