『真理男』(しんりおとこ):タイトルの変遷
★以下は、2009年12月14日のブログ記事からの抜粋です
我が家では、今度出る新刊は「コードネーム=まりおちゃん」と呼ばれている。
正式なタイトルは、『真理男、ローリング・ストーン』で、これは、当然「しんりおとこ、ろーりんぐ・すとーん」と読む。
なぜ、「まりおちゃん」かというと、このタイトルが決まりかけたときに、妻に、
「今度のタイトル、真理男になりそう」と、メールしたら、妻が「マリオ? なぜ、マリオ?」と返信してきたので、
それ以降、「まりお」というコードネームが定着した。
私は、これまで本のタイトルで悩んだことはなくて、書き出しと同時に、大抵タイトルも決まっている。
で、私が付けたタイトルが、出版社に採用されて、そのまま流通してきた。
でも、今回は、なかなかタイトルが決まらなくて、本当に苦労した。
(タイトルが決まらないと、本全体のイメージがまとまらない)
初稿を書き上げた時点でタイトルは決まっていなくて、原稿の表紙に、思いつきで候補を20くらい列挙していた。
が、どうしても「コレ」と、ピンと来るものがなく、その中から、とりあえず『A STORY/ある物語』というタイトルを選んだ。
が、エージェントに「タイトルが良くない」と言われ、妻の提案で、『ハリケーン』と改題した。
が、今度は、版元が決まった際に、編集者からダメ出しされ、タイトルは、先方にお任せすることにした。
で、担当のKさんが(ちょっと言い難そうに)提案してくれたのが、『真理男』(しんりおとこ)というタイトルだった。
これを聞いたときは、同席していたエージェント共々、「ぎょっ」として、しばし黙り込んだ。
当然、これは『電車男』の三番煎じ、四番煎じである。『電車男』の後に、『地図男』という本もあるし、
『バス男』という映画もある。
編集の方は、「売る」ことを念頭にタイトルを考えてくれるわけだから、著者が思い入れで付けるよりいい、とは思いつつ、
「……うーん、でも、ビミョー……」というのが、正直な気持ちだった。
その辺の迷いは、担当のKさんにもあったようで、しばらくしてから、
「『真理男』の後に、何か横文字を加えたいんです。例えば『真理男、ブレーク・スルー』とか……」
と言われ、たまたま、そのころ、よく聴いていたのが、「ローリング・ストーンズ」だったので、
「じゃあ、『真理男、ローリング・ストーン』というのは、どうですか」と提案したら、即、正式採用となった。
「ローリング・ストーン」という言葉は、調べてみると、英・米・日で、それぞれ意味合いが違い、
肯定的なニュアンスで使われることもあるし、否定的なニュアンスで使われることもある。
でも、『真理男、ローリング・ストーン』と文字に書き、声に出してみると、なんだか、収まりがいい。とても、しっくり来る。
今では、このタイトルがすごく気に入っていて、これ以外、考えられない。
本のタイトルや装丁というのは、当然のことながら、内容と同じくらい、いや、もしかしたら、それ以上に大切だ。
もし、小学館の編集者が、知恵を絞って、(由来はどうであれ)『世界の中心で、愛をさけぶ』というタイトルを考えることなく、
著者の片山恭一さんが最初に付けた『恋するソクラテス』というタイトルのまま、世間に流通させていたら、
あれほど売れることは、なかっただろう。
人間と同じで、本も、実際にお付き合いさせていただく前は、まずは「顔」で選ばれる。
願わくば、1年後に、世間の人々が、「ねえ、まりおちゃん、読んだ?」「うん、まりお、面白いよね」
という会話を交わしていてくれることを願う。
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……というところまでが、2009/12/14のブログ記事だったのですが、
その後、年が明け、編集者から、「いろいろ考えた末に、やはり、どうしても『真理男』にしたい」、という旨の申し入れがありました。
私は、「タイトル」というのは、最終的には、編集者が決めるべきものと考えているので、
全幅の信頼を置いている担当さんが、そこまで言うなら、と、その申し入れを飲みました。
果たして、その判断が「吉」と出るか「凶」と出るかは、まだ誰にも分かりませんが、少なくとも後悔はしていません。
2010/03/15 鈴木剛介